2021年3月31日水曜日

差別のない世界の作り方



昨今は『差別』というテーマが世間的な話題に上がることが多くなりました。
差別の対象は多数あり、人種・性別・障碍・家柄・生まれ・宗教・年齢・社会的立場・身体的特徴・思想など、さらに細かく分類してゆけば枚挙に苫がありません。

多様性が望まれる近年の中で根深く残る差別という問題。
差別というのは往々にして、その根底に『偏見』があります。
偏見とはその字の如く、偏った見方のことであり、アメリカの心理学者 ゴードン・オルポートは「偏見とは十分な根拠もなしに他人を悪く考えること」と定義しています。
つまり差別の一側面として、十分な根拠もないのに決めつける、ということが偏見となり差別を生むという考え方ができます。

更に、決めつけの対象は他者だけでなく自分自身にも向けられることもあります。
例えば「自分はどうせダメな奴だ」という自分に対する否定的な決めつけによって自尊心を自ら下げてしまうことも、カウンセリングの場では珍しくありません。

どうして人は決めつけてしまうのでしょうか。
その答の一つとして、『ヒューリスティック』があります。
ヒューリスティック (heuristic)とは、何かしらの意思決定の際に本人も無自覚に用いているほどに慣れ親しんだやり方や法則を指します。
幾つか種類もあり、我々がよく用いるものとして、

その人が人生の中で遭遇した実際の出来事を参考にして、原因や確率を推測する方法を『利用可能性ヒューリスティック』と呼びます。
経験則と言えば聞こえはいいですが、しょせん一人の人生での経験だけでは推測にも限界があるだろうに、人は確信を持ちやすくなります。

もう一つは『代表性ヒューリスティック』と言って、その人の元々持っていた固定観念に合った特徴ばかりを探し出して、大きな特徴のグループに属していると見なすこと。いわゆる『ステレオタイプ(固定観念や思い込み)』に都合のいい部分だけ見ようとする傾向のことですね。

これらヒューリスティックは我々の頭の中のコスト削減のために行われます。
何かを判断したり推論する時に、いちいち丁寧に根拠や情報を集めて整理していては処理が追い付かなくなってしまうので、自分にとってそこまで重要ではない事柄に対してはできるだけ頭のメモリを使わずに過去の経験や既存の知識だけで解決してしまうという事が起きます。
要するに、あまり考えずに楽ができるわけです。
脳がオーバーヒートしてしまわないために必要な機能ではあるのですが、合理性に欠けたり乱暴な決めつけにもなってしまうものです。

話を『差別』に戻しましょう。
差別とはこうしたヒューリスティック手法によって生まれやすいと考えられます。
簡単に言うなら、考えなしの決めつけが差別を助長すると言えるかと。
ならば差別を減らすために必要なことは、決めつけずにちゃんと考えて判断すること、となるのでしょう。
自分の持つ常識や経験則だけでカテゴライズ化して判断してしまわずに、一個人・一事物として先入観なく向き合うことが大事なのです。

私のカウンセリングのベースには『ヒューマニスティック心理学』があります。『人間性心理学』と訳され、その特徴は、人間を決定論的ではなく多面的な存在として、一人として同じ人はいない個人の尊重を重んじることにあります。
まさにその人間観こそが差別のない世界には必要なのではないでしょうか。


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2021年3月11日木曜日

10年という歳月


東日本大震災から10年が経ちました。
今年は10年の節目ということもあり、風化させない・忘れないというテーマで震災を扱うメディアが多いように感じます。

もう10年経つのですね。私は当時から心理臨床の業務に携わっていましたので、メンタルケアの現場で関わらせていただくこともありました。
被災者をはじめ日本中の人々がなにかしら心的な影響を受けていたことを鮮明に覚えています。

防災という観点で言っても、今後への対策としていつまでも忘れてはならない、風化させるべきではないことは明白ですが、10年という月日は人々の悲しみをどのように変えたのでしょうか。

カウンセリングに訪れるクライエントさんには、震災だけに限らず虐待や犯罪被害など過去の出来事に苦しんでいる方々も少なくありません。
そんな方たちが、問題解決や症状の緩和を実感された時に、自身の辛い過去に対しての変化を様々に表現されます。

「過去の出来事の捉え方が変わった」

「縛られていた過去から脱却できた」

「辛い体験を受け入れることが出来た」

そんな、過去と向き合い前へ進むことができた方たちの中で、このような表現をされた方がいました。

「過去の経験は変えられないけれども、思い出にすることができた」

この言葉に私は一つの答えをもらった気がしました。
過去に起きてしまった出来事はもはや変えることのかなわない事実です。
ですが『今ここ』の現在進行形の人生でも変わらぬその苦しみを感じ続けるのではなく、悲しい過去もその人を形成する要素の一つとして、過去を持ちつつ『今ここ』の人生を生きることが、過去の乗り越え方の答えの一つなのではないかと。

とはいえ、10年という歳月は直接被害を受けなかった人たちにとっては過去の出来事として割り切れるものかもしれません。10年ひと昔と言いますし。
ですが、当事者にとっては10年という月日は思い出にするにはまだまだ短すぎる年月でもあるでしょう。

感情の処理・整理は、その大きさや種類によってかかる時間は様々です。
みんなが乗り越えたから私も乗り越えられる、そんな単純なものではありません。
一人ひとり背景が違うように、感情も同じではないのですから。
自分のペースで自分の過去や感情と向き合ってゆけば、きっといつか答えが見つかるものだと思います。

現在も震災の影響を受けている方々の一日も早い回復を心より願います。


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