2015年5月15日金曜日

映画『ブレードランナー』にみる人にとっての記憶とは



映画『ブレードランナー』を久しぶりに見ました。
以前に見たのは高校生の頃でしょうか。深夜のTV映画で流れていたのをタイトルもわからぬまま視聴。
そのなんとも表現のできない不思議な雰囲気に飲まれてあっという間に時間が経ちました。
正直な感想としては
「なんだったんだ?」
それがファーストコンタクトでした。

見たことのない方に簡単なストーリを。(ネタバレはしていないのでご安心を)

2019年、遺伝子工学により開発された、外見上は本物の人間と全く見分けがつかない「レプリカント」と呼ばれる人造人間が、奴隷として過酷な作業に従事していた。そんな「レプリカント」にも感情が芽生え、人間に反旗を翻す事態にまで発展した。しばしば反乱を起こし人間社会に紛れ込む彼等を「処刑」するために結成されたのが、専任捜査官“ブレードランナー”である。

という、ジャンルでいうと『SFハードボイルド』というのが近いですかね。
いわゆる人間vsアンドロイドというSFのパターンのひとつとなるストーリーが土台なのですが、公開が1982年のアメリカ映画で、のちのSF作品にも大きな影響を与えているSF映画の金字塔といえる作品です。
フィリップ・K・ディックのSF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を原作としていますが、
このディック原作の映画作品は他にも『トータル・リコール』『マイノリティ・リポート』『アジャストメント』あたりがメジャーでしょうか。

そんな『ブレードランナー』ですが、初見ではその面白さを味わうのは難しいかもしれません。
とはいえ、映画としての完成度は十分あります。
特に、ごちゃ混ぜの未来感がなんとも幻想的というか不思議な"気味悪さ"を感じて視覚的にも見応えアリです。

余談ですが、この『ブレードランナー』の舞台は未来のカルフォルニアなのですが、日本語の看板やアジアンテイストが満載なのです。(多大に間違った日本感なんですけどね)
その理由として、80年代にアメリカの経済は日本経済に追い越され日本文化と日系企業に支配されてしまうという予想が真実味があったため、という説もあるそうです。
2012年の映画『トータルリコール2012年版』では韓国語が散りばめられていたのもそのオマージュなのかもしれませんね。

前置きが長くなりましたが、どんなところが面白いのかというと、原作者であるディックの作品全般に感じさせるテーマ。

「自分は何者で、どこから来てどこへ行こうとしているのか」

そういった、自分探し的なものが根底にあるように思えいます。それが心理に携わるものとしてとても興味深い。

例えばこの映画のアンドロイドは、写真にこだわりを持っています。自分の昔の写真を大事にして、それを心の拠り所のようにしています。
実際はアンドロイドですので過去などありません。プログラムによって作られた偽りの過去なのです。

自分がアンドロイドであることを知らない彼らは、
『自分は人間なのか、それとも……』
そう悩みます。
そんな彼らは『過去』にすがります。
「過去があるということは自分は人間なのだ」
ということですね。
しかし、記憶だけでは不確かなので、物質的な写真によって安心するわけです。
この辺りの細かい心理描写が見事に描かれています。
そしてそれこそがディック映画に共通する

『記憶の曖昧さ』
『真実の微弱性』


を見事に演出しているのです。

『記憶』というのは実に曖昧なものです。
カウンセリングの中でも、クライエントが自分の記憶によって長い間苦しめられるというケースは多くあります。
しかしその記憶を掘り下げていくと、事実とは異なっていることに気づくこともあります。
長い時間をかけ、記憶が捏造されていくのです。

子供の頃に母親が我が子を大切に思い、それゆえ厳しく叱ったとします。
親の愛情を理解するには子供はまだ幼すぎた時、その子供はこんな記憶を持ちます。
「お母さんはぼくを虐待した」
悲しいすれ違いですが、実際に私が関わったクライエントにも数名いらっしゃいました。

また逆に、記憶の曖昧さを応用した治療法もあります。
過去の記憶を催眠などの技術を使い再体験して、別の記憶として塗り替えることにより、トラウマを解消する。
そんなことも可能なのです。

私のお気にリのフレーズにこのようなのがあります。

『事実』と『真実』は同じとは限らない。
『事実』とは実際にあった出来事。
『真実』とはその人がそうだと信じている出来事。

『事実』は変えることはできません。しかし『真実』は変えることができます。
それは、心を癒やす際には、良い意味での記憶のエラーとして利用することができます。

自分の真実を探っていく作業。それがカウンセリングの一側面なのかもしれません。


真実は人の数だけあると思うたるみでした。





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